曾根崎心中 ルモンド紙の一面トップに載った 2011年8月

 『此の世のなごり。夜もなごり。死にゆく身を例ふれば あだしが原の道の霜。一足づつに消えて行く。夢の夢こそ哀れなれ』

 この件は「曾根崎心中」道行の冒頭。七五調の名文は日本人の耳に心地よく響き、一度聞くと忘れられない。近松門左衛門によるこの代表作は、世話物といわれ、元禄16年(1703年)に初演された。当時の文楽大夫、人形遣いらの協力を得て完成した「杉本文楽 曾根崎心中 付り観音巡り」は2011年8月に初演を果たした。その後マドリード、ローマ、パリ、と海外公演を行った。 「未来成仏うたがいなき恋の手本となりにけり」。パリの初日もこの名調子で幕を閉じた。翌朝のルモンド紙の一面トップに「杉本は人形に命を吹き込んだ」という大見出しとともに写真と記事が載った。経済や政治を差し置いて、演劇が載ったのである。日本の新聞ではあり得ない。文化の成熟度の違いであろうか。